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『ユーリ!!! on ICE』音楽プロデューサー・冨永恵介特別インタビュー

2016.12.21 <PASH! PLUS>


PASH! PLUS

スケート演技は「3拍子で美しくみせることができる」ことに気がついたんです

 試合シーンで流れるオリジナル楽曲の数々。各選手のキャラクターやスケートに対する想いを十二分に表現するその楽曲たちは、いかにして生まれたのか。本作で音楽プロデューサーを務める冨永恵介(PIANO)さんより、詳しくお話を伺うことができました。
 今回PASH! PLUSでは、PASH!1月号に載せきれなかったそのインタビューの一部を特別にご紹介! なおPASH!本誌でもここにはない詳細インタビューを掲載しているので、ぜひチェックしてみてください♪

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冨永恵介

1978年生まれ、横浜出身。音楽プロデューサー。
日本大学芸術学部写真学科卒業、音楽プロダクションGRANDFUNKを経て、2012年PIANO inc.設立、代表取締役社長就任。趣味は海釣り。
主な音楽プロデュース作品に、ポカリスエット2016 CM『キミの夢は、ボクの夢。』、SUNTORY PEPSI桃太郎シリーズCM(小栗 旬主演)、TVアニメシリーズ/『残響のテロル』『スペース☆ダンディ』『坂道のアポロン』、五五七二三二〇/『半世紀優等生』 ほか

Q.本作に携わるなかで特にこだわられたことは?

 最初に企画書やネームを拝見したとき、ストーリー、セリフ、キャラクター像、そのどれもが緻密で奥行きがあると感じました。それと同時に、とても分かりやすく、濃く、太く描かれているのが印象的でこの作品の重要なポイントだと思いました。それにならって楽曲制作の際も、音楽を“太字のペンで描く”ような気持ちを心がけました。

 作曲の梅林くんは特にメロディセンスに秀でた作家で、『Yuri on ICE』『History Maker』『Theme of King JJ』ほか、ポップス、ロックなどおもにモダン系サウンドの作曲担当として大活躍してくれました。松司馬くんは、古今東西クラシックの技法・書法を駆使してこれほど精密なオーケストラ曲が書ける人は、今日本にはほとんどいないのでは?という稀有な技術の持ち主なので、クラシック、オーケストラものを中心にその突出した才能を遺憾なく発揮してもらっています。『《離れずにそばにいて》』『ピアノ協奏曲 ロ短調 アレグロ・アパッショナート』などのオーケストレーションの技術は、アニメーション作品、ひいてはエンターテイメント作品においても、ほかにはなかなか類を見ない高いレベルと言えると思います。

 そうしたガチクラシックの書き下ろし新録から、様々なミュージシャンをフィーチャーしたジャンル・ミクスチャーサウンド、シンセを多用したポップスまで、音楽のジャンルがとても多岐に渡るので、それぞれ違うベクトルのこだわりをもって取り組みましたが、なかでも全体を通して特にこだわったと言えるのは、“リズム”です。

 フィギュアの音楽はダンスのための音楽という側面があるため、実制作に入る前にさまざまなフィギュアスケートの音楽を、リズムの見地から検証してみました。すると、ターン、ジャンプ、回転、伸縮などスケートの演技の身体性は、「3拍子で美しくみせることができる」ということに気づきました。逆に4拍子はどちらかというとノリよく勢いがあって、エンターテイメント性や直情的な感情にフォーカスさせられる感じ、というか。

 スコアを見返してみると、『History Maker』(8分/6拍子)、『アリア《離れずにそばにいて》』(8分/6拍子)、『Yuri on ICE』(8分/12拍子)、『愛について~Eros~』『愛について~Agape~』(8分/6拍子)、グァンホンのSP『La Parfum de Fleurs』(4分/3拍子)、JJのFS『Partizan Hope』(8分/6拍子)と、3拍子系の曲がこんなに多いサウンドトラックは珍しいのでは、と思います。またプログラム曲以外の劇伴音楽でも、ワルツを多く取り入れています。

 そのためか、3拍子、ワルツのリズムでずっと踊りながら音楽制作していたような感覚があります。ビートがなくても、弦のグルーヴだけで気持ちよく踊れるようになっているか。歌のテイクはダンサブルに繋げているか。ピアノの旋回感の気持ちよさは途切れていないか。演奏の強弱は良いグルーヴを生んでいるか…など、演奏、歌唱のディレクション、アレンジ、MIXのディレクションまで、全曲の全行程において「踊れるかどうか」を随時確かめるために、常にノリを感じ取りながら、手や足や体をいろいろ動かして作業していました。そんなこともあって、制作中はとにかくずっと踊っていた感じがします(笑)。おかげで1年前に比べて指揮が上手になった気もします。
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Q.DEAN FUJIOKAさんが歌っているOPテーマ『History Maker』の制作エピソードを教えてください。

 DEANさんが日本で俳優として大ブレイクする前に、たまたま彼の『My Dimention』という曲を聴いたときから、「こんなオルタナティヴで枠に収まらないコスモポリタンなアーティストがいるんだな、日系人かな? いつか何かの機会でご一緒できたらいいな」と思っていました。今回のOP楽曲制作に際して、山本監督からは「世界を舞台に活躍する選手たちの話なので、スケールの大きい曲を」と依頼されたんですね。それでアイディアを検討するうちにDEANさんの名前を思いついて、監督と相談した上でオファーしました。

 楽曲の制作は、大枠の方向性を提案させてもらった上で、DEANさん、梅林くん、松司馬くん、そして僕とでアイディアを出し合いながら共同作業で進めていきました。梅林くん、松司馬くんも素晴らしい仕事をしてくれて、曲のラフが仕上がってきたある日、DEANさんが突然うちの事務所(PIANO)に書き上がった歌詞を持ってきてくれたんです。それで急遽その場で1コーラス分だけ、DEANさんのデモボーカルを録音しました。そしてこれをオケのデモと合わせてみたんです。そうすると、輝いて突き抜けるような、それは素晴らしい楽曲がそこに誕生していることは明白でした。なかでもタイトルにもあるサビの部分の歌詞が素晴らしくて。このアニメをエポックメイキングなものにするべく毎晩夜を徹して作業に取り組んでいる、この『ユーリ!!!』制作チーム全員の気持ちを代弁しているような、そしてそんなみんなをどこまでも力強く鼓舞して後押ししてくれるような応援歌になっていることに、心から感激しました。

 その後すぐに山本監督にもデモを届けて、興奮のあまり一晩中曲を聴き続けていたんです。そうしたら山本監督からも、「ずっとデモを聴いています!」と連絡があって。さらにその明け方頃には、監督が「OP映像のアイディアを思いつきました」とイメージを送ってくださって…。あの日のことは本当に忘れられません。

 その後、DEANさんとアレンジの方向性を相談するなかで、彼の音楽パートナーでインドネシアのジャカルタに在住するDJ Sumoさんに、アレンジとプロデュースで制作に参加してもらうことになりました。急遽Sumoさんに来日してもらって、DEANさんのボーカル録音を彼と東京で行い、続いてオーケストラパートの録音を松司馬の指揮で行い、最終のMIX作業は僕が実際にジャカルタにあるSumoさんのスタジオを訪れて、2日間ほどの立ち会いでMIX作業を行って、曲の完成にこぎ着けました。DEANさん、そしてSumoさんと組めたことで、フィギュアの世界を飛び越えて、あらゆる競技大会のテーマにしても耐えうるような、強度の高いモダンなアスリート賛歌というレベルまで、楽曲のポテンシャルを押し上げられたと思います。

 ちなみにサビのあたりに入っている「♪オーオーオー…」というコーラスですが、あれはDEANさんの呼びかけで、そのときスタジオの現場にいた男性全員でブースに入って、肩を抱き合いマイクを囲んで円陣を組みながら歌ったものです。いい感じに汗臭くて、気に入ってます(笑)。
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>>次ページでは、ギオルギー・ポポーヴィッチ役でも作品に出演する羽多野 渉さんのEDテーマ、『You Only Live Once』制作エピソードを直撃!

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