interview
声優・舞台俳優二足のわらじで活躍する内田夕夜の芝居にかける想い。インタビューをお届け
2018.11.07 <PASH! PLUS>
PASH! PLUS
声優・舞台俳優として活躍されている内田夕夜さんにインタビュー。ターニングポイントとなった作品や、今後の目標についてなど、たっぷりと語っていただきました。
さらに、11月8日より上演される舞台『われらの星の時間』の気になる内容や意気込みも直撃!
――内田さんは、もともと舞台俳優として活動されていたとお聞きしています。声のお仕事をすることになったきっかけはなんですか?
僕は昔から『シャーロック・ホームズ』が好きで、ある日、BBC製作のドラマの『シャーロック・ホームズ』を観ていた際に、エンディングのテロップに先輩役者の宮本 充さんの名前を見つけて、「あれ!?」と思って。僕は宮本さんを舞台俳優だと認識していたので、「声で演じるこういう仕事があるんだ!」と驚いて、自分も挑戦してみたいなと思ったんです。それで、自分でデモテープを作って、うち(俳優座)の映画放送部に持ち込み「もし声の仕事があったら、ぜひ僕にやらせてほしい」と話をしました。
ちょうど同時期に、小山力也が『ER』の吹き替え声優の仕事を始めていて、「俳優座にも声の仕事をする人間がいる」ということを業界に知らしめてくれたんですね。そのおかげで、『ER』日本語吹き替え版のスタッフの方が新しい番組を製作する時に、俳優座にキャストの相談をしてくれるようになったんです。だから、すごくタイミングがよかった。小山がトビラを開いてくれて、僕はその後ろを通っていった感じですね。
――舞台の仕事から、吹き替え声優のお仕事に広がっていったんですね。さらにそこからアニメのお仕事につながった出来事はありますか?
アニメ関連では、最初は乙女ゲームのキャラクターを演じました。そのきっかけは、『金色のコルダ』の音響監督さんが、新しいキャラの声をイメージされていたときに当時、僕がジュード・ロウの吹き替えをしていた映画をたまたまご覧になっていたらしくて。それを聞いて「この声だ!」とインスピレーションを受け、僕をオーディションに呼んでくれたそうです。
その方から後から耳にした話では、僕の声を聞いたとき「声だけで、イタリア製のスーツを着ている感じがしたんですよ」だそうで…僕はイタリア製のスーツ、持ってませんけど(笑)。これがきっかけで、『金色のコルダ2』の吉羅暁彦役を演じさせていただきました。
――舞台、吹き替え、アニメ(ゲーム)。それぞれの仕事の違いや魅力を教えてください。
舞台はなんといってもライブであり、観客が演者と同一空間にいるという点ですね。演者だけでいくら稽古をしても完成することはなく、劇場にお客様が入って、観てくださるお客様と一緒に作り上げていくというところが一番の魅力です。吹き替えは、僕にとっては舞台に近い感覚です。順番に録って(演じて)いくこと、すべてが仕上がっている完成した映像に合わせて演じること、そして自分と違う人間の「間」に合わせて自分を変えて演じること。それらが魅力だと思います。
吹き替えの場合は「呼吸に合わせるように」アニメの場合は「呼吸をしているように」演じる、ということを友人の平川大輔くんが以前言っていたんですが、これはすごい名言。僕も「なるほど。その通りだな」と思っています。吹き替えとアニメの違いといえば、僕は吹き替えの方が自由度が高いと感じています。それは、吹き替えの方が役作りのヒントがたくさんあるから。
どんな人物が、どんな状況でどんな表情で演じているか、細かいところまで全部分かる状態で演じていける吹き替えに対して、アニメは絵が仕上がっていない状態で録ることが多いので、少ない情報から膨らませて演じなければならない。僕はヒントが多ければ多いほど役作りしやすいタイプなので、吹き替えの方が演じやすいです。
――内田さんにとってターニングポイントになった出演作品を教えてください。
やはり『金色のコルダ』ですね。一番最初にコルダをやらせてもらったときから、5年後10年後に自分にとってのターニングポイントになるだろうなという意識は既にありました。今振り返ってみても、やっぱりあれがターニングポイントだったなという思いがあります。
『金色のコルダ』はゲームであり、アニメもあり、舞台にイベント…すごく複合的な展開のある作品です。そういったメディアミックス展開のあるものに初めて出演させてもらい、一緒に出演しているキャストのみなさんもいろんな方がいて、これはすごく面白い仕事だ、という感覚があったので、当時から「きっと自分の足場になる」と思っていました。
だから今、日常で何かを考えるとき「吉羅だったらどうするかな?」と考えてしまうことがあるぐらい、自分に深く入り込んでいるんですよ。また、『金色のコルダ』のイベントに出演させてもらって、演じている向こう側でどれだけの人が支えてくれているか、そこにどれだけのファンの思いがあるのかを実感できたことも、自分にとって非常に大きい出来事でした。
――『金色のコルダ』はその後もシリーズが続いていますが、近作では吉羅役だけでなく榊 大地役も演じていらっしゃいますよね。
大地の話を最初にいただいた時、すごく嬉しい気持ちと同時に、「これがシリーズ第一弾だったら、果たして自分が大地役にキャスティングされただろうか? シリーズ前作から演じてきた実績があるからこそ、お話をもらえたのでは? 僕よりももっといい大地を演じられる人がいるのでは?」という思いがあって。ものすごく悩んで、でも悩みに悩んだすえ、僕自身『金色のコルダ』という作品に強い思い入れを抱いていることを再認識して、最終的に大地役を演じさせていただきました。
――それだけ『金色のコルダ』に思い入れがある…ということは、これまでの出演作品のなかでお好きな作品も、やはり『金色のコルダ』でしょうか?
やっぱり『金色のコルダ』が大好きですね! 『コルダ』以外だと、吹き替えで演じた映画『スプリット』。これは12人の人格を持つ多重人格者の役で、ひとつのシーンのなかでいくつもの人格に変化していくんです。それを呼吸まで合わせて一気に録るのは本当に大変でしたが、ものすごくやりがいがありました。声優仲間たちからも「あれはすごかったね」と評価してもらえて嬉しかったですね。
最近のアニメ出演作では『七つの大罪』のヘンドリクセン役。第1シーズンのラスボスで、正義に対する絶対的な悪でなくてはならないのに「悪者っぽくやってください」とは一言も言われなくて、むしろ言われないことが怖かったです(笑)。『七つの大罪』は、梶裕貴くんを中心に、キャストもスタッフも全員が、作品を盛り上げようという意識がすごく高い作品なので非常にやりがいがありました。
それからゲスト出演させてもらった『血界戦線』。俳優座の小山がクラウス役を演じていましたし、そのほかの面々も、よくぞこれだけ集めたなというだけの実力者がつどっていたので、非常に楽しく演じさせてもらいました。僕はゲストキャラとしての出演で、ゲストで行くときって普通は番組をぶっ壊さなきゃいけない、という意識で行くんですが、『血界戦線』は何があってもぶっ壊れないし、こっちがぶっ壊す前から壊れる方々しかいなかったので!(笑)
――内田さんはこれまでいろんな現場を経験されていると思うのですが、仲の良い声優さんはいらっしゃいますか?
仲がいいというと、先ほどお話しした「吹き替えとアニメの違いについて」の名言があった平川大輔くんですね。平川くんとは、韓国ドラマの『美男(イケメン)ですね』で共演していたり、個人イベントも一緒にやらせてもらったりしたので、けっこう絡みが多いです。現場で彼に会うと、僕が彼の頭のうえにペットボトルやコーヒーのカップなんかをのせて写真を撮る、というのが定番になってます(笑)。僕が近づいていくと、平川くんも何をされるか分かってくれて、静止した状態で待ってくれるんですよ。
同じ俳優座に属する小山力也も、彼の方が年上ですが、仲良くさせてもらっています。
――今後の声優としての目標を教えてください。
常に思っているのは「普通にすごいことができる声優になりたい」ということです。以前、ベッドの上に横たわった死ぬ間際のキャラとして、谷 育子さん演じる母親と話す――というシーンを演じたことがあって。キャラ同士の距離感が近かったので、僕は必死にタイミングを計って谷さんの隣に入ろうとしていたのですが、本番が始まると、離れた場所に座っていた谷さんが、すーっと立ち上がってごく自然に、僕が思っていた隣に入ってきたんです。僕にとっては必死に考えた大作戦を、谷さんはいとも自然に当たり前にやっていた。そんな風に、今の僕が「すごい」と感じることを当たり前にできる、そういう声優になりたいですね。
僕が尊敬する先輩方…堀内賢雄さんや速水 奨さん、井上和彦さんと仕事でご一緒すると「この人にはいったいどれだけの演技の引き出しがあるんだろう」といつも驚かされるんです。収録後の飲みの席で、先輩がたにお酒をすすめていろいろ聞きだそうとするんですが、和彦さんなんて「忘れちゃったー」と笑ってるだけ。僕にとっては本当にすごいことなのに、和彦さんには「忘れちゃった」と笑えるレベルのこと。そんな風にすごいことが当たり前にできるようになりたいし、内田夕夜として、唯一無二の演技ができるようにもなりたいと思っています。
―11月8日からの俳優座の舞台『われら星の時間』に出演されるそうですが、稽古の状況はいかがですか。
この作品は、ハロウィンの夜、ある介護老人施設から老人たちが脱走する、という物語です。その老人たちを追いかける介護士、脱走老人のことを聞きつけた報道チーム、施設のトップが三つ巴、四つ巴になって、騒動を繰り広げます。
認知症や介護の問題というのは重いテーマですが、この作品では「老人たちはなぜ脱走したのか」という謎解きを通して、それらの問題を前向きに捉えて描いています。だからきっと、観てくださった方が劇場を出たとき「おばあちゃんに電話しようかな」という優しい気持ちになってもらえるかなという気がしています。
――内田さんは主役を演じるとのことですが、聞くところによるとこの主役、なんと最初から内田さんをイメージして書かれたキャラだそうですね。
はい。僕は報道側の人間を演じるんですが、最初に脚本家さんにお会いしてじっくり話をして、そこで脚本家さんが感じた僕という人間をキャラクターに反映する「当て書き」というスタイルで脚本が書かれているんです。
でも、自分に寄せてもらっているから楽に演じられるかというと、そんなことは全然なくて、稽古では人間性の根底にかかわる部分で厳しい演技指導を受けていて、産みの苦しみまっ最中です。しかも、台詞量が膨大なので覚えられなくて! でも、舞台の台詞って本当は覚えてはいけないんです。文字として追いかけるのではなく、その場の状況と感情に応じて自然と溢れてくるものなので…文字面だけ覚えようとしていたら、演出家にドヤされます(笑)。そこも毎日葛藤中ですね。
――そんな舞台の開幕を前にした今、読者に伝えたいことは?
僕は声優でもあり舞台俳優ですが、一生に一度も舞台演劇を観ないという人が、実はものすごく多いらしいです。生の舞台は、演者とお客様がライブで一緒に作品を作り上げていくものなので、その楽しさをぜひ多くの人に知っていただきたい。そして、舞台って二度と繰り返せないものだからこそ、みなさんの根っこに、より深く刺さると思います。
もしかしたら一度の観劇が、一生の宝物になるかもしれない。舞台はそんな可能性を秘めていると思います。まだ舞台演劇を観たことがない皆さんにこそ「ぜひ一度、劇場に来てください」とお伝えしたいです。もちろん、僕は「必ず前回を超えてみせる!」と思って毎回演じているので、観劇経験がある方にも観にきていただけたら嬉しいです!
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