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TVアニメ『夏目友人帳』は“人の暖かさ”と”対話すること”の大切さを教えてくれた。10年間変わらない本作の美しさを振り返り
2018.10.15 <PASH! PLUS>
PASH! PLUS
2008年のTVアニメ化から今年で10周年を迎える『夏目友人帳』。9月29日からは『劇場版 夏目友人帳 ~うつせみに結ぶ~』が公開されている他、東京メトロとのコラボベント、和カフェがオープン中など今年は『夏目』イヤーと言っても過言ではありません。
今回はTVアニメ化10周年を記念して『夏目友人帳』の見どころを振り返り。人間と妖怪が織りなす不思議な関係や本作に込められたメッセージを紐解いてみました。
祖母から孫へ。“友人帳”をきっかけに紡がれ始める人間と妖怪の縁
『夏目友人帳』の主人公は、妖が見える少年・夏目貴志(CV.神谷浩史)。幼いころから妖怪を見ることができた夏目は、それゆえにトラブルに巻き込まれることも多く、苦労が絶えない日々を送っていました。
ある日、祠に閉じ込められた大妖怪・斑(まだら)の封印を解いてしまったことをきっかけに、祖母・レイコが残した妖怪たちの名前が書かれた古い冊子“友人帳”を手にすることになった夏目。友人帳には、夏目と同じく妖怪を見ることができたレイコが、勝負で負かした妖怪の名前を記していました。
友人帳を手にしたことで妖怪と不思議な関係を築くことになった夏目は、斑と“死んだら友人帳を渡す”ことを約束。斑は招き猫を依り代に、人の目には大きな猫に見える“ニャンコ先生(CV.井上和彦)”として夏目の用心棒になる……というのが『夏目友人帳』の大まかなあらすじです。
用心棒として夏目を守る存在のニャンコ先生ですが、普段はスルメを食べたり、お酒を飲んだり、お饅頭を食べたりと食いしん坊。しかし、夏目に危機が及べば斑に変化し、圧倒的な力で敵を薙ぎ払ってくれる頼れる相棒です。また、妖怪の知識や助言を夏目に与える姿はまさに“先生”そのもの。
『夏目友人帳』には数多くの妖怪が登場しますが、この2人の関係はやはり特別。夏目とニャンコ先生の縁が”友人帳”をきっかけに結ばれたことは、本作の根幹であるといっても過言ではないかもしれません。
『夏目友人帳』には“人の暖かさ”とは何たるかが描かれている
幼いころに母親、そして立て続けに父親と死別した夏目。その後は父親の親戚をたらい回しにされるも、妖怪がらみのトラブルに巻き込まれてしまうことで“気味が悪い子”として忌み嫌われ、内向的な子供時代を過ごしていました。
父親の遠縁にあたる藤原夫妻に引き取られてからは、夏目は失いつつあった明るさを取り戻し始めます。おっとりした妻・塔子さん、無口だけど穏やかな性格の夫・滋さんら藤原夫妻は、絵にかいたようなおしどり夫婦。夏目が帰宅すれば「おかえりなさい」と笑顔で出迎えてくれる、食卓では学校の出来事を交えて朗らかな時間を過ごすことができる。夏目がこれまで味わうことのなかった家庭の暖かさを当たり前のように与える、とても暖かなご夫婦です。
そんな藤原夫妻と、ニャンコ先生と過ごす家は夏目の幸せそのもの。藤原夫妻と夏目の出会いは、第三期『帰る場所』で描かれているのですが、見るたびに“藤原夫妻が居てくれてよかったよ本当に”と思います。そして、帰る家があることのありがたみをひしひしと感じます。
高校では夏目と同じく妖の気配を感じることができる田沼 要、無邪気で心優しい多軌 透、夏目の初めての友人となった西村 悟、思いやりがありしっかり者の北本篤史、真面目な委員長の笹田 純といった良き友人にも恵まれます。
学校で友人と学び、遊び、帰れば温かなご飯と笑顔が待っている。『夏目友人帳』は、日々忘れかけている“人の暖かさ”が感じられる作品なのです。
『夏目友人帳』に見る“対話”の大切さ
本作では、“人や妖との対話”が密に描かれています。友人帳を手にしたことで夏目の元には、様々な妖が訪ねてくるようになるのですが、友人帳から名前を取り戻したいもの、友人帳を奪おうとするもの、レイコを訪ねてくるもの、夏目の力を狙うもの……と、訪れてくる理由は様々です。
本作には妖を祓う力(退治する力)を持つ“祓い屋”が存在し、夏目もこの力を使用することも可能ですが、基本的には自衛でしか使用することはありません。夏目は“妖だから”という理由で目に入れぬようにするのではなく、基本的には“なぜ訪れてきたのか”を問いただしています。
夏目にとって妖は幼少期の孤独を生んだ原因でもあり、憎しみを抱いてもおかしくありません。しかし、夏目は妖と対話することで、妖と“分かり合おう”とするのです。この対話は人と妖を結び付けることがあれば、妖怪と妖怪とを結び付けることもあります。これは“妖を見ることができるからできること”ではなく、夏目自身が“分かり合おう”とする姿勢を持っているからこそ成せること。大人になるにつれて対話することを疎かにしてしまいがちですが。本作を見た後は“対話することの大切さ”が身に染みます。
穏やかな田舎町での暮らし。胸にじわりと広がる光の暖かさ。
本作の舞台は、とある自然豊かな田舎町。辺りは青々とした山や森に囲まれているほか、土着神を祀った祠や寺、神社も数多く点在しています。また、駅は駅舎がポツンとあるだけの、少し寂れた雰囲気(これがまた良い)。本作で描かれる風景は美しいだけでなく、画面越しなのに流れる空気や光の眩さが感じられるような、まるでそこに居るかのような気分にさせてくれます。
そして『夏目友人帳』の風景のなかでも、“木漏れ日”と“夕方”の描写は特に美しいと個人的には思います。日々を忙しく生きている現代人にこそ、この2つの光景を見てほしい。どこまでも広がる空に、こぼれるように差し込む日の光……癒されるに違いありません。
これは本当の本当に余談なんですけど、筆者の地元も夏目たちが暮らす街に引けず劣らず田舎(最寄り駅まで車で20分かかる)なんですが、『夏目友人帳』を見てからちょっとだけ地元の風景が好きになりました。同じように感じた方がいるかもしれないし、田舎がない人にとっての田舎になってくれる作品でもあるかもしれません。
あの頃の感覚を味わえるかも? 『夏目友人帳』を見てほっこりして!
このコラムを執筆するにあたってTVアニメ『夏目友人帳』を見返したのですが、第二期『雛、孵る』や第三期『蔵にひそむもの』、第四期『小さきもの』でちょっと泣きました。放送当時は中学生だったのですが、大人になって見た今、また違った感覚で見ることができたのは人間的に成長したからだと思いたい。
しばらく『夏目友人帳』を見ていなかったという方は、この機会に見返してみるとまた違った思いを抱くかもしれませんし、前と変わらぬ思いを感じられるかもしれません。そして、これまで『夏目友人帳』を見ていなかったという方でも、田舎町で紡がれる暖かな物語に不思議と“懐かしさ”を感じられるはずです。きっと。
各種配信サイトでは本シリーズが配信中。ぜひご覧ください。
■DATA
『劇場版 夏目友人帳 ~うつせみに結ぶ~』
ROADSHOW:2018年9月29日公開
公式サイト:http://natsume-movie.com/i
公式Twitter:@NatsumeYujincho
CAST:
原作=緑川ゆき/月刊LaLa(白泉社)連載
総監督=大森貴弘
監督=伊藤秀樹
脚本=村井さだゆき
妖怪デザイン・アクション作監=山田起生
サブキャラクターデザイン=萩原弘光
美術=渋谷幸弘
色彩設定=宮脇裕美
編集=関 一彦
撮影=田村 仁・川田哲矢
音楽=吉森 信
アニメーション制作=朱夏
製作=夏目友人帳プロジェクト
配給=アニプレックス
CAST:
夏目貴志=神谷浩史
ニャンコ先生・斑=井上和彦
夏目レイコ=小林沙苗
藤原塔子=伊藤美紀
藤原 滋=伊藤栄次
名取周一=石田 彰
田沼 要=堀江一眞
多軌 透=佐藤利奈
西村 悟=木村良平
北本篤史=菅沼久義
笹田 純=沢城みゆき
柊=ゆきのさつき
ヒノエ=岡村明美
三篠=黒田崇矢
ちょびひげ=チョー
一つ目の中級妖怪=松山鷹志
牛顔の中級妖怪=下崎紘史
河童=知桐京子
津村椋雄=高良健吾
津村容莉枝=島本須美
結城大輔=村瀬 歩
ほか
©緑川ゆき・白泉社/夏目友人帳プロジェクト
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