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発売記念SS公開! 『私は敵になりません!6』
2017.08.25 <PASH! PLUS>
PASH! PLUS
長編ロマンチック架空戦記・完結!発売記念SSが到着!
本日発売のPASH!ブックス最新巻
『私は敵になりません!6』
(著:佐槻奏多 イラスト:藤 未都也)
発売記念SSを特別に公開!
『君に贈り物を』
この日は、少し変わったことをしようと計画していた。
だから戦後処理の一番厄介なところを片付けた頃には、すぐに手配を始めた。
手袋、靴、ドレスは基本だろう。
いずれ王妃になるキアラのため、そういったものを採寸してたくさんあつらえた中に、レジーが依頼したものを滑り込ませた。
これを渡すことで、たぶん彼女はその日の贈り物はこれだけなのだと認識するはず。だからこそ、その後に渡す物に驚いてくれるだろう。
後はキアラがとあるものを決めたという聞いたら、すぐに温室に人などを手配した。
要だというのに、温室のことが一番の懸念事項だった。
戦での最大の敵でもあったマリアンネ王妃は、花に興味が薄い人だったようで、手入れなどが行き届いていなかったのだ。それでもある程度様になっているのは、顧みられなくても保ち続けようとした庭師のおかげだ。
そうして当日、レジーは浅葱色にレースが多く使われたドレスと、白いレースの手袋、繻子の靴を朝のうちにキアラの部屋に運び込ませた。
今日はこれを着てほしいという伝言を、メイベルに託して。
婚約中は、まだ適度な距離を保つべきという考えのメイベルは、贈り物の仲介はとてもいい笑顔で受けてくれる。
その時言われたのが、
「これですよこれ。陛下が大きくなった時にするだろうことで、とても楽しみにしていたのは。きっとキアラ様もお喜びになるでしょう」
という言葉だった。
「婚約者に、私が特別な贈り物をする姿が見たかったのかい?」
「むしろそういうことをしたいと思う相手を得て、陛下が心を砕いた贈り物を私が持って行く、ということがしたかったのですよ。そのお相手が、素直に喜んでくださるところを見て、陛下の幸せを実感したいのですわ」
ようするにメイベルは、レジーに幸せな結婚をしてほしかったということだろう。親代わりをしていたメイベルにそう言われて、レジーも気恥ずかしさから苦笑いしてしまう。
そうしてメイベルは靴の箱を手に持ち、他の二つを別な女官に持たせて意気揚々とレジーの元から出発した。
そうして午後。
昼食の時間になって、キアラは贈ったドレスを着て正餐室に現れた。思った通りに似合っていて、その姿にレジーは密かに満足していた。
「ドレスをありがとうレジー。これ、もしかして誕生日だから?」
「そうだよ。誕生日おめでとう、キアラ」
彼女の誕生日は、まだ寒いこの時期なのだ。
「嬉しい……」
キアラが微笑んだのを見て、メイベルが「よし」と言わんばかりに手をぐっと握りしめたので、笑いそうになってしまう。
「気に入ってくれて良かったよ。さ、とりあえず食べてしまおう。この後、見せたい物があるんだ」
そうして食後にキアラの手を引いて連れて行ったのが、綺麗に整備させた温室だ。多少なりとも外の気温に影響されるので、緑はあっても花はそれほど多くはない。
「キアラ、こっちおいで」
「何? ……あ!」
温室の少し奥まった場所に作った一画に来たキアラは、それを見て目を丸くした。
「かわいいヴィオラ……え、こんなにたくさん、わざわざ咲かせたの?」
そこにあるのは、紫に淡い黄色の差し色が華やかなヴィオラだ。
キアラが抱えられない大きさの丸い鉢植えに、こんもりと咲き誇っている。
「どうしたのこれ……?」
「君が、王妃としての紋章をヴィオラに決めたと聞いて。それなら誕生日に贈ろうと思ってね」
王妃は自分の紋章を新たに作ることになる。そして婚姻前には、その紋章を使って様々なものを作らなくてはならない。
だから結婚すると決めた時に、早めに決めてもらったのだ。
花にしたのは、参考にしたのがレジーの母だったからだろう。自分も花にしようと考えた末に、華やかな花を遠慮して選ばなかったのは、実にキアラらしいと思っている。
「たくさんだと君が遠慮しそうだからこれだけにしたのに、それでも多いかい?」
「だってまだ春じゃないから、とても大変でしょう? でもその分だけ……本当に、嬉しい。
でも大変だったでしょう? 庭師さんも手間がかかったと思うの」
それでもキアラはそこにしゃがみこんで、ヴィオラの香りに目を細めた。かなり気に入ったらしい。
「これが夏の花だったら諦めたよ。あと、次の誕生日は、奥さんになったキアラだから。恋人の間にキアラのお祝いをしてあげられるのは、今日だけだからね。記憶に残るものにしようと思ったんだ」
そう言うと、キアラが恥ずかしそうにしながらも、レジーの手を握ってきた。
でも口をとがらせている。
「ずるい。レジーの誕生日、もう結婚した後じゃない。私、お返しができない」
「私は誕生日以外に、ずいぶんと大きな贈り物をもらったけどね」
「何かした? 私」
自分がしたことを完全に範疇外にしているキアラの、額をつつく。
「私の命を救ってくれただろう。それで十分だ」
他のどんな女性だって、それだけはできなかった。それ以上の贈り物なんて他にはないだろう。
キアラは「私も助けてもらったし……」とぶつぶつ言っているが、感謝の気持ちについては、
これから長い時間をかけてわかっていってもらおうと思う。
<終>
ゲームによく似た世界に転生した少女キアラは、悪役として殺されてしまう運命にあった。
そんな結末を覆すため、キアラは魔術師となり、戦場に身を投じることを決意。
ルアイン王国軍と、その同盟国サレハルド王国の軍と戦う。
一度は捕虜になるものの、レジーによる救出作戦が成功。その時レジーに告白されたキアラは、自分もレジーのことを好きだと気づく。
そしてレジーは、魔術師と魔獣を擁するルアイン軍に勝つため、自身も魔術を操る方法を手に入れた。快進撃を続けるキアラ達は、ついに王都へ。
そこにはファルジア王妃マリアンネが秘策とともに待ち構えていた……。
三国を巻き込んだ戦いの結末は?
キアラとレジーは生き抜き、結ばれることはできるのか……? シリーズ完結!!
DATA:
私は敵になりません!6
著:佐槻奏多 イラスト:藤 未都也
好評発売中/定価1,296円(税込)/四六判
↓ご購入はこちらからもできます
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