【発売記念SS公開!】ヒロインな妹、悪役令嬢な私3

2016.12.24 <PASH! PLUS>


PASH! PLUS

暴走シスコン令嬢物語、ついに完結!

PASH!ブックス最新刊『ヒロインな妹、悪役令嬢な私3』の発売を記念して、ここでしか読めないショートストーリーを公開します♪

【妹様と手作りクッキー】

  ミシュリーの姉、クリスがクッキーを手作りすると言い出した。

「なんで?」

「世話になっている知り合いに日頃の感謝を示すためだな。まずはシャルルに食べさせてやろうかなと思ってる!」

「そっかー」

 姉の手作りクッキーの送り先を聞いた瞬間から、ミシュリーの胸の奥から憎しみが湧きだしたが、それはぐっと抑えて表情には出さないのが妹のたしなみだ。

 その代わりに、身を乗り出してさも名案を思い付いたかのような笑顔で提案する。

「なら、わたしも手伝うよ!」

 ミシュリーは姉の幸せを願っている。

 世界で一番の姉には世界で一番幸せになってほしいと思っている。だから姉がシャルルにプレゼントをしたいと言えば、それを阻止して姉の顔をしょげさせるようなことをミシュリーはしない。

 だが愛する姉の幸せと憎きシャルルの幸せはイコールではない。

 シャルルには、どちらかと言えば不幸になってほしい。それがミシュリーの偽らざる気持ちだ。

 姉のクッキー製作の手伝いを申し出たミシュリーは、その用意を周到に開始していた。 

 ミシュリーは姉の幸せを願っているが、姉が幸せになるのにシャルルが幸せになる必要はないと考えている。シャルルが不幸であっても、クリスが笑顔ならば何の問題もないのである。

 ならば、むざむざと姉の手作りの菓子をシャルルの舌にのせてやるのが正しいだろうか。

 答えは否である。

 なぜ、わざわざシャルルなどに姉の逸品を与えなければいけないのか。妹として断じて抵抗しなければならない事柄であった。

「むぅ」

 ミシュリーは思考する。

 マリーワから母親譲りと称された自分の欲望に忠実な思考回路を働かせる。

 とりあえずシャルルが憎い。姉から好意を向けられているシャルルが憎いから苦しめたい。だが行き過ぎると姉を悲しませてしまう。もしクッキーに毒物でも入れてシャルルが七転八倒するのを見たら、やさしい姉が傷つくだろうことは明白だった。

 シャルルは苦しめたい。

 しかし姉には悲しんでほしくない。

 姉がクッキーを無事シャルルに渡し、シャルルがそれを完食しつつもシャルルが苦しみ姉は笑顔になるというのが今回のミッションの条件だ。なかなか難しい按配である。

 だが自分ならばできるはずだ。

「よしっ!」

 ミシュリーは、握りこぶしをかわいらしく握って、姉の笑顔を守りつつシャルルを不幸にするべく行動を始めた。

「よしっ、できたぞ!」

「わあ!」

 学園の厨房。そこを一時的に借りて姉妹一緒に作り上げたクッキーは、無事に完成した。

 手先が器用で物覚えがよい姉が致命的な失敗をするはずもなく、焼きあがったクッキーの見た目は完璧だ。香りだって食欲を刺激する。

 ただ、味が混沌なのは素材を用意したミシュリーが一番よく承知していた。

 ミシュリーの用意した素材には絶妙な配合で異物を混ぜ込んでいた。見た目では判別できず、焼き上げても不格好になることはない。もちろん毒物でもあるはずがなく、ただひたすらに不味くなるようにありったけの調味料を配合してある。

 こんなもの、姉に食べさせるわけにはいかない。

「どうだ、ミシュリー」

「すっごくおいしそう! ね、わたしが味見してもいい?」

「もちろんだぞ! まずミシュリーが食べてくれ!」

 何も知らない姉の得意げな笑顔を受けて、ミシュリーは笑顔でクッキーを一つまみ。そうしてためらいなく口に放り

込んだ。

 地獄の砂でも嚙んでいるかのような極悪な味がした。

「……」

 事前に知っていてなお、一時停止してしまった。たぶんこれは生前大いなる罪を犯した罪人が地獄に落とされた時の主食かなにかで間違いなかった。

 だが味覚から訪れる苦痛を感じると同時に、ミシュリーは達成感に包まれていた。

 成功したのだ。

 これを食べれば苦しむしかないという極悪な味を作り上げた。シャルルがそれをあからさまに表に出すことはしないだろう。なにせ、これの製作にミシュリーが関わっていることは明白なのだから、クリスに責は一切ない。すべての怒りは自分へと向き、クリスに味わった苦しみを伝えるようなことはしないはずだ。

 だからこそミシュリーはそれをじっくりと咀嚼し、胃の腑に落とし込んで、満面の笑顔を浮かべる。

「すっごくおいしい! きっとシャルルも喜ぶよ!」

「よかった! ……うむ。せっかくだから私も食べてみようかな」

 クッキーに伸ばした手を、はしっとミシュリーが摑 つか

んで止める。

 繰り返すが、姉にこんなものを食べさせるわけにはいかなかった。

「だめだよ、お姉さま? 試食分はわたしへのプレゼントでしょ」

 大天使の笑顔を浮かべたミシュリーは、姉の試作のクッキーを完食した。

 翌日、寝込んだ。

 

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ヒロインな妹、悪役令嬢な私3

著:佐藤真登 イラスト:閏月戈

◆STORY◆
私はクリスティーナ・ノワール。
大天使なミシュリーとあははうふふのめくるめく未来と決別し、
悪役令嬢の道を歩むと決心してから早二年。
私も十六歳になり、学園では悪役令嬢として確固たる地位を築いていた。
時間は歩みを止めることなく流れ続け、やがてミシュリーも入学の時を迎えた。
そして、私が愛すべき運命が始まる—。

 

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