interview
『劇場版 七つの大罪』梶 裕貴「物語の最後までキャラクターを演じ切ること、全うすることが、声優としての喜びです」
2021.06.26 <PASH! PLUS>
PASH! PLUS
“聖戦”や三千年にわたる呪いから解放され、完結を迎えた〈七つの大罪〉が、再びスクリーンに戻ってくる。7月2日公開の『劇場版 七つの大罪 光に呪われし者たち』は、原作者・鈴木央先生が描き下ろした、“最終章のその先”を描いた完全新作オリジナルストーリーが展開するという。
PASH! PLUSでは、本作でメリオダス/ゼルドリスの2役を演じた梶 裕貴さんに、インタビュー。劇場版やテレビシリーズへの想い、そしてこの7年間が、梶さんにとってどんな時間だったのかを訊いた。「自分ではどうすることもできない輪廻に苦しめられてきたからこそ、“後悔しない自分でいよう”と思えるメンタリティが大事になってくる」と、メリオダスについて語る梶さん自身が、「後悔はない」と思えるために大切にしている生き方とは。
梶 裕貴さんインタビュー
――今回の劇場版の台本を読まれた際の、感想をお聞かせください。
原作が完結し、放送中のTVアニメ最終章もクライマックスというタイミング。僕にとっての『七つの大罪』が、間もなく終わってしまうんだ……と、寂しさが募っていたときだったので、新しい劇場版の制作決定を知ったときは、すごくうれしかったです。
しかも今回も央先生描き下ろしの物語……! 原作を読んでいたときに、「この伏線は一体いつ回収されるんだろう?」とずっと気になっていた最高神や、ダリア、ダブズが登場する物語だったので驚きました。先生のなかでは、ずっと前からこの物語を描くことが決まっていたのかな? と思ってしまったほどです。それくらい、原作には描かれていなかった部分をきれいに補完してくださっているので、僕はもちろん、原作ファンの皆さんにもスッキリしていただける内容だと思います。
――劇場版で大切に演じたシーンや、収録で苦労したシーン、注目シーンをお聞かせください。
TVシリーズの収録が始まったばかりの頃に、スタッフさんから「『七つの大罪』は、メリオダスとエリザベスの愛の物語です」というお言葉をいただいたのですが、今回の劇場版では、まさにふたりの愛の物語の“その後”が描かれています。さらに、メリオダスたちだけでなく、ゼルドリスとゲルダ、キングとディアンヌ、バンとエレインなどなど、それぞれの幸せな姿が描かれていたので、純粋にうれしかったですね。
また、愛といっても恋愛という意味だけでなく、家族愛や兄弟愛も描かれています。メリオダスとゼルドリス兄弟のドラマも見どころの1つ。すれ違いから生まれてしまった因縁めいたものや誤解がようやく解けた“その先”が描かれているので、何気ない兄弟のやりとりを見られたことがうれしくて。同時に、演じがいもかなりありました。なんといっても、メリオダスとゼルドリスがそれぞれしっかり登場しますし、ふたりの掛け合いのシーンも多いので、ぜひ楽しみにしていてください。
――メリオダスとゼルドリス、2役の演じ分けで意識していることはありますか?
メリオダスに加えて、ゼルドリス役も演じさせていただくことが決まった際は、うれしさ半分驚き半分といった心境だったのを覚えています。見た目やサイズ感も近かったので、どう演じ分けようか、自分のなかでもいろいろと考えて収録に臨みました。個人的には、あそこまで太く低い声になるとは思っていなかったのですが、〈十戒〉のリーダーであり、メリオダスたちにとっての”敵”であるというイメージを演出するためにも、結果的にあの声質に決まったんです。そんなわけで、メリオダスとゼルドリスは声質がかなり違うということもあり、演じ分けでの苦労はそこまでありませんでした。もちろん、メインキャラクター2役を同時に演じるという物理的、体力的なハードルはありましたが(笑)。
――劇場版には、メリオダスとゼルドリス、キングとエレイン、ワイルドとホークなどなど、いろいろな兄弟(妹)のシーンが描かれます。梶さんにも妹さんがいらっしゃいますが、どの兄弟(妹)に近いですか?
自分の妹の話で恐縮ですが、彼女は本当に素敵な人間なんです(笑)。とてもしっかりしている。なので強いて挙げるとしたら、キングとエレインのような兄妹でしょうか。幼い頃から同じ場所で、同じように育ったはずなのに、僕とは人間性が全く違うから面白いですよね。大人になった今でもたまに連絡を取り合ったり、実際に会ったりしていますが、話を聞いていると、仕事でも普段の立ち居振る舞いでも、僕にはできないような魅力がいっぱい。
我が妹ながら、尊敬します。歳を重ねれば重ねるほど、そう思うことが増えましたね。先日も妹とメッセージのやり取りをしたときに、そんなようなことを伝えたばかりです。妹も僕のことを慕ってくれているので、うれしいですね。
――梶さんの“お兄ちゃん”エピソードがあれば教えてください。
僕は高校を卒業してすぐに一人暮らしを始めてしまったので、その頃はなかなか頻繁には会えなくなってしまったのですが、妹が成人してからは、スケジュールを合わせて食事に行くようになりました。一番感慨深かったのは、初めて一緒にお酒を飲んだ時!
妹とは9つも年齢が離れていますし、それこそ僕が実家を出た時には彼女はまだ中学生だったので、僕のなかでは当時の印象で止まったままなんです。なので、そんな妹がもうお酒を飲める年齢になっていたことも不思議でしたし、地元の埼玉からひとりで東京に出てこられるという、その事実にすら違和感がありましたね。
「本当にひとりで電車に乗れるのかな…?」みたいな。もう大人なのに、ですよ?(笑)。仕事で朝早かったり夜遅かったりという話を聞くと、ついつい「大丈夫かな?」と心配してしまうことも。僕よりしっかりしているくらいなので、もちろん大丈夫なんですけどね。でも逆に、しっかりしすぎているので心配になることもあります。無理だけはしないでほしいですね。あ、それから多分、僕よりお酒が強いと思います(笑)。またふたりで飲みに行ける日が、早く戻ってきてほしいですね。
――長く演じられてきたメリオダスは、梶さんにとってどんな存在のキャラクターでしょうか。
『七つの大罪』のアニメが始まった頃は、まさかここまで長い付き合いになるキャラクターだとは予想もしていませんでした。イベントなどがある度に「物語の最後までキャラクターを演じ切ること、全うすることが、声優としての喜びです」とお話させていただいてきましたが、その願いが7年の時を経て、ついに実現したことが純粋にうれしいです。でも、だからこそ寂しくて…(笑)。
これだけ長い期間、ひとりのキャラクターと共に歩むという経験が初めてだったこともあり、まだちょっと振り返るには早いかな、という心境です。『七つの大罪』は、自分の名刺代わりになるような作品。メリオダスをきっかけに声優・梶裕貴を知ってくださった方も多いと思いますので、あらためて、このご縁に感謝ですね。
――2014年にスタートした『七つの大罪』のTVシリーズ。この7年間は、梶さんご自身にとってどんな時間だったでしょうか。
7年もあれば、きっと1日単位で変化していると思います。“何が”と具体的に言葉にするのは難しいのですが……役者は心を扱う仕事ですから、日々演じるなかで感じること、考えることがあり、仕事以外でもいろんな方と出会ったり、いろんなものを見聞きしたりすることで、価値観も変化してきたと思います。
そのひとつひとつの機会に、しっかりと考え、ちゃんと向き合って選んできたつもりなので、それが正しくても間違いだったとしても、後悔だけはしたくないですし、後悔はないと思えるんです。たとえ一周回って同じ場所に戻ってきたとしても、見える景色は違うでしょうしね。なので、広い意味で言えば”自分は自分でしかない”ということを実感した7年間だったようにも思います。自分だからこそ得られたもの、出会えたことがあるように、きっと失ってしまったものもあるはず。でも、それすらも肯定できるような自分でありたいです。
――たとえ一周回って戻ってきたとしても、らせん階段のように確実に昇っているはずですよね。
そうですね。こうしてお話をさせていただく際も、なるべく皆さんに迷惑をかけたくないですし、自分も無責任なことは言いたくないという想いがあるので、ちゃんと考えてお話しているつもりです。ただ、いろいろなことが常に身の回りで起きているわけで、1カ月後や1年後には、もしかしたら今とは真逆なことを考えているかもしれない。
でもそんな変化を経て、いつかまた「やっぱり自分はこう思う」と、もとに戻ってくることもアリだと思うんです。そんなまわり道をした上でたどり着いた考えは、きっと時間や経験の分だけ深みも増しているはず。だからこそ、常に責任をもって生きていたいですね。
――自分をただ肯定しているわけではなく、肯定できる自分であるために努力する、という生き方は、簡単ではないはず。どんなふうにそう思えるようになっていったのでしょうか。
様々な作品でたくさんのキャラクターに触れて、自分以外の考え方を、芝居を通して共有してきたことも大きいと思います。あとは普段生きているなかで、誰かと共感したり、ぶつかったりした結果、「後悔はないと思える自分でありたい」と思えるようになりました。もちろん全く後悔がないわけではありません。
でもだからこそ、後悔していない自分でいたいと心から思うんですよね。これからの自分がどうなるかなんてわからないですが、何事にも責任感をもって、ちゃんと選んで、決めていきたい。その先に、「こういう生き方をしてきてよかった」と思える自分がいるんじゃないかと思うんです。
――劇場版のなかでも、メリオダスが過去と今を肯定する印象的なセリフがありました。
完璧に見えるメリオダスだって、きっとそうだと思うんです。どんな強大な力があっても、どんなに頭がよくても、最初からベストな選択肢だけを選ぶことのできる人なんて、まずいないわけで。三千年もの間、自分だけではどうすることもできない輪廻に苦しめられ続け、そのなかで足掻いてきたからこそ、今の彼があるんだと思うのです。つまりは「後悔しない自分でいよう」と思えるメンタリティが大事になってくるのかな、と。
かといって、常にそう強くいられるほど単純ではないのも人間です(笑)。でもだからこそ、“自分がどうしたいか”だけは、僕も見失いたくないんですよ。そしてそういう部分を持っているメリオダスは、やっぱりかっこいいなと。同時に、物語の中盤以降は、ひとりで抱えていた本音を仲間たちに打ち明けたり、仲間たちの前で慟哭したりと、徐々に弱い部分も見せるようになりました。その弱さが見えたことで、彼の人間味が感じられて、より好きになった部分も大きいです。
「こうありたい」と強く思いながら、でも不完全な部分もあることこそ人間らしさでしょうし、だからこそ仲間にも慕われるんだと思います。まあ、彼は魔神族ですが(笑)。
――では、梶さんが理想とする声優像・役者像もお聞かせください。
これも日々変化している気がします。自分自身でもそうですし、社会のなかでも近頃、声優の立ち位置は目まぐるしく変化しているので、悩んだり葛藤したりすることはよくあります。自分の理想だけでは成り立たない部分もありますからね。でもだからこそ、声の役者としてのプロ意識を持ち、任せていただいた役の魅力を、この世の誰よりも引き出してあげられる役者でありたいと思うんです。役の想いをしっかりと代弁していきたいですし、監督やスタッフさんが求めるものに答えていきたい。強いて言えば、それが、今までもこれからも変わらない僕の理想の声優像だと思います。
――梶さんはこれまでにもいろいろな挑戦や作品をご自身の糧にされてきましたが、『七つの大罪』という作品はどんな面でご自身の成長につながりましたか?
7年間、その時々で課題やハードルは違うのですが、『七つの大罪』への出演が決まった頃は、どちらかと言えば等身大の少年・青年を演じることが多く、そんな主人公が、物語を通して成長していく様を演じることが、当時はほとんどでした。でもメリオダスの場合は、最初から完成されたキャラクター。
しかも、あの〈七つの大罪〉の団長ですし、ただ飄々としているだけではなく、シリアスな面も持ち合わせているという、とても難しいキャラクターだったので、それだけでも僕にとってはかなりの挑戦でした。加えて、共演者の皆さんも自分よりキャリアや年齢が上の先輩方ばかり。
そんななか、現場における座長という立ち位置で、周りを引っ張っていかなければいけないというプレッシャーはかなり大きかったですね。とはいえ結果的には、共演者の皆さんの優しさと作品愛に支えられ、”座長”として背中を押していただいたような形でした。心から感謝しています。まさに、最強の仲間たち。今思えば、僕ひとりで抱え込む必要なんてなかったんだな、と感じています。
――では、後半はいかがでしたか?
ただただ、その役をキープしていればいいというわけではなく、メリオダスも変化し、それに応じて芝居の幅も広がっていきました。途中、新たにゼルドリス役も加わりましたしね。さらにコロナ禍になってからは、どうやって現場のモチベーションやテンションを保つべきかなど、考えることがたくさんありました。なので…何がどんな成長へと繋がったのかは、自分でもわかりません(笑)。
ただ、7年間向き合ってきたという達成感は、確実にある気がします。『七つの大罪』に限らずですが、何事においても長く続ける以上、常に自分のベストでいられるなんてことはないわけで、ときには心がブレてしまう瞬間や、喉のコンディションが悪いときだってあります。だからこそ、その時々の最善の力をいかに発揮できるかが勝負でした。続けることの難しさを知り、それをなんとか乗り越えこられた経験は、これから声優としてキャリアを重ねていくうえでも、大きな財産になったと思います。
――最後に公開を楽しみにしているファンへ、メッセージをお願いします。
長きにわたり、原作&アニメ『七つの大罪』を応援してくださり、本当にありがとうございました! 物語の最後までメリオダスを演じ切れたこと、そして、劇場版第2弾が実現したこと、心の底からうれしいです。『七つの大罪』は、大人のみならず、子どもたちのファンもとても多い作品。映画第1弾『劇場版 七つの大罪 天空の囚われ人』の舞台挨拶のとき、客席にたくさんの子どもたちがいるのを目の当たりにして……それまでのイベント等で感じていた愛や熱量とは、また違ったエネルギーをもらった気がしたんです。
お世話になっているメイクさんからも「甥っ子が、大きくなったらメリオダスになりたいと言ってましたよ」と聞いて、そのときに、それまで経験したことのない感情があふれて。なんと言うか……本来、僕が持っている「いい芝居をしたい」とか「梶が演じてよかったと思っていただきたい」といったモチベーションとは、また違った視点からの喜びを知ることができたんです。
声優がどうとか、芝居がどうというのは、純粋に作品を楽しんでいる子どもたちにとっては関係のないこと。彼らにとっては、キャラクターたちがそこにしっかりと存在していること、夢や希望を感じられることが一番大事なんだなと実感したんです。
そのとき、あらためて「そんな素敵な作品に自分は関わらせていただけたんだな」と、ものすごく幸せに感じたんですよね。今はコロナ禍の影響で、以前のように、直接作品ファンの皆さんとお会いできる機会は減ってしまいましたが、だからこそ、自分がアフレコで表現した声や芝居が、テレビやスクリーンの向こう側にいる皆さんに届いていると思うと、それだけで励みになります。『七つの大罪』最終章のその先を、ぜひ見届けていただきたいですし、感想をいただけたらうれしいです。どうぞ、よろしくお願いします!
ライター 実川瑞穂
『劇場版 七つの大罪 光に呪われし者たち』
2021年7月2日公開予定
原作:鈴木 央 『七つの大罪』(講談社「週刊少年マガジン」)
監督:浜名孝行 脚本:池田臨太郎 アニメーションキャラクター設定:西野理惠(作画組)
美術監督:空閑由美子 色彩設計:桂木今里 撮影監督:近藤慎与 3D監督:大嶋慎介
編集:小野寺桂子 音響監督:若林和弘 音楽:KOHTA YAMAMOTO / 澤野弘之
主題歌:岡野昭仁「その先の光へ」(SMEレコーズ)
CAST:梶 裕貴 雨宮 天 久野美咲 悠木 碧 鈴木達央 福山 潤 髙木裕平 坂本真綾 杉田智和 中村悠一 神尾晋一郎
川島 明(麒麟) 井上裕介(NON STYLE) / 倉科カナ
制作:スタジオディーン
製作:「劇場版 七つの大罪 光に呪われし者たち」製作委員会
配給:東映
公式サイト: www.7-taizai.net
公式Twitter:@7_taizai
© 鈴木央・講談社/2021「劇場版 七つの大罪 光に呪われし者たち」製作委員会
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