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『サマーゴースト』小林千晃さんインタビュー「役ではなく“小林千晃”として臨みました」
2021.10.16 <PASH! PLUS>
PASH! PLUS
アニメ、小説、漫画、作詞……と多岐にわたる表現活動で躍進する気鋭のイラストレーターであるloundrawさんのアニメーション監督デビュー作品『サマーゴースト』が、11月12日より公開されます。
描かれるのは、都市伝説として囁かれる若い女性の幽霊、通称“サマーゴースト”を見ようとネットを通じて集まった、3人の高校生の青春群像劇。
主人公は、成績優秀でありながらも自分の望む人生へ踏み出せないでいる高校3年生の杉崎友也。そんな主人公を演じた小林千晃さんに、作品の魅力やキャラクターについて、様々なお話を伺いました。
小林千晃さんインタビュー
――まず、この作品の初めて触れた時の印象について教えてください。
他のアニメとは少し違うなというのが、率直な感想です。淡々とストーリーが進んでいき、劇的な変化はないのに、何かしら伝わるものがあって……どちらかというと実写映画に近いものを感じました。
イラストもすごくキャラクターが自然なんです。作品内容にもよりますが、アニメでは実写よりもキャラクターがキャッチーにデフォルメされて描かれることが多いと思うんですね。それがアニメの良さだとは思うんですが、そこをあえて自然に描いているというのが面白いと思いました。
絵だけではなく、設定も脚本もすごく人間らしさを大事にされているなと感じました。
――今回演じられた友也はどのようなキャラクターですか?
最初の設定を見た時はお母さんに今の自分のやりたいことを否定されて、方向性を決められて、言いたいことも言えなくて……というイメージを抱きました。
でも、実際のストーリーのなかでは、もうその段階は通り過ぎていて、そこには感情が動かないんです。「本当はやりたいことがあるのに……!」と怒ったりすることもなく現状を受け入れている。けど、ふと思い出して、好きな絵を見ることで安心しているシーンからは、弱い部分もあるんだなと感じました。
――では、そういった部分を役作りでは意識されたのでしょうか。
最初に役作りはしないでくださいと言われたんです。友也ではなく“小林千晃”で話してほしいと。
僕が僕を演じるっておかしいですし、僕自身がセリフを言うってことはありえないじゃないですか。だから、友也がいま何を思ってこう言ったんだろうとかはあまり考えることはありませんでした。
流れなどは事前に確認しますが準備をし過ぎないようにして、その場でほかの方の声を聴いて普通に答えたり、他の方のテンションに合わせて会話をしたり、僕自身のリアクションでまずやってみようと、空っぽに近い感じで現場に行っていました。
もちろん友也がこのシーンでは悲しんでいて気持ちを切り替えようとしている、というのは脚本を読めばわかるんですけど、それを表現しようとすると、どうしても演技になってしまうんです。
フラットな状態でやってみて、足りなければもう少しこうして、とディレクションをたくさん受けた部分もあったと思うんですけど、僕自身はすごく肩の力を抜いてアフレコができました。
――ディレクションで印象に残ったことはありましたか?
僕が話しているような感覚はではありましたが、より繊細なものを求められました。
――繊細さはどのように表現されたのでしょうか。
自分だけでどうにかするというよりは、ミキサーさんに協力をしていただいて。近くにいても何を言ったか聞こえないくらいのひそひそ声を拾えるようにマイクの感度を細かく調整してもらいながら録音をしました。そんなふうに普通のアニメでは使えないような声を、あえて取り入れていました。
ただ淡々と話すだけだと、僕がやる意味もなくなってしまいますよね。その言葉の端々から友也が何を思っているかというニュアンスを出さないといけないので、それがとても難しくていろいろと工夫をしていったんです。
よく「絵に負けない演技を」と言われるんですが、この作品に関していうと、絵が放つ世界観にどれだけぴったりとあてはめられるかという点を意識していました。その点も他の作品と違うところですね。
――アフレコを終えた感想を教えてください。
正直、疲れた~って感じています(笑)。映画なので、通常放送のアニメよりは長いですし、主人公という立場なのでセリフも多いというのはもちろんなのですが。2時間ドラマの主人公を吹き替えるほうが圧倒的にセリフ量は多いですが、その10倍くらいは何回もリテイクしてこだわってやりなおして……僕の中にある、引き出しという引き出しを全部開けて、もうその中に何も入っていないよ! というところからも探し出すくらいの演技を求められました。
それに応えるのが楽しいし、やりがいもあるし、この作品を良くしたいという気持ちもあるので、アフレコではものすごく集中力を使いました。それが終わった瞬間にドッときたので、なかなか疲れました(笑)。
――loundrawさんが作り出した映像を見て感じられたことはありますか?
目線の動きや表情のちょっとした動きがすごく自然なんですよ。ハッとした表情とかアニメらしい表現方法はいろいろあると思うんですが、そういう動きが無いんです。視線一つにしても、ふっと目をそらすだけ……とか、とても人間らしくて。
loundrawさんらしい、個性のある美しいイラストですが、動かす時の表現方法としては、自然さを意識されているんだろうな、と。憶測ですけどね。
――共感できる登場人物はいますか?
友也にも共感するところは多いですが、涼でしょうか。自分の思うままに進んで、初めて会った二人と幽霊を見に行ったあとに「楽しかった、ありがとう」とかさらっというところとか。
言葉で表現するかはわからないですが、僕もその場にいたらそう思うなという部分がありました。自分がまちがっていると思うことには協力しない、とか正論だし、なあなあにしないところとかいい奴だなって思います。
――友也に共感した部分はどこですか?
思春期ならではの悩みをいろいろ抱えながら、最終的に行きついた部分はとても共感を持てました。
いつか人は死ぬからこそやりたいことに挑戦していこうとか、前向きにやってみようという考え方は同じだなと思います。それでもやっぱり悩むんですけどね……。
――作品について、改めて感じられる見どころはどこでしょうか。
一番に挙げるなら絵がきれいなところですが、それは僕が言わなくても誰もが感じてくれることかな、と。
友也を演じて言えることは、何か派手なことが起きるわけではないんですが、自分が経験したこと……思ったことが何かしら描かれていると思うので、自分もこう思ったなとか、こんな友達いたなとか、観た人の考えにひずみを生んだり、感情が動いたりする部分が必ずあると思うんですよね。
感じ方が人それぞれなので、この映画は楽しいよとか切ないよ、とか主観では表現できない作品です。年代でも感じ方が変わる作品ではないかと思います。いま、中高生の人が観るのと、おじいちゃんおばあちゃんになってから観るのとで違う感想があるんじゃないかな。
また、どんな人でも受け入れられる作品なので、疲れている人や難しいことを考えずに頭を空っぽにして観たい、と言う人も楽しめると思います。
――小林さん自身は、作品を通してどんなことを感じられましたか?
10年前の僕だったら、絵がきれいとか、ちょっとしたセリフにお前失礼だなあ、とか表面的な部分だけで捉えていたと思います。
今この年齢で観ると、友也も本当に死と向き合っているからこそ、普通だったら言わないことを言っているというのも理解ができますし、非日常的ですが幽霊との出会いを通して生まれる友也の感情の変化も感じ取れます。
懐かしさとは違うんですが、昔悩んでいたことをいま前向きにとらえられるきっかけって何だったかなとか、自分の高校生時代を振り返るきっかけにもなりました。
――最後にこの作品に興味を持った読者のみなさんへメッセージをお願いします。
上映時間が約40分と映画のなかでは短い作品なのですが、登場人物ひとりひとりにきちんとフォーカスされています。
僕自身は、友也を演じているのでつい感情移入してしまいますし、友也の言葉で何かを感じてもらえると嬉しいですが、4人の登場人物がそれぞれに魅力的なので皆さんがどのキャラクターの言葉に共感するのか、ぼく自身も楽しみにしています。軽い気持ちでも楽しめる作品ですので、ぜひ観にきてください。
(撮影・文/松井美穂子)
『サマーゴースト』作品概要
【公開時期】
2021年11月12日
【スタッフ】
原案・監督:loundraw
脚本:安達寛高(乙一)
キャラクター原案:loundraw
音楽:小瀬村晶、当真伊都子、Guiano、HIDEYA KOJIMA
企画:FLAGSHIP LINE
アニメーション制作:FLAT STUDIO
製作・配給:エイベックス・ピクチャーズ
【キャスト】
杉崎友也:小林千晃
春川あおい:島袋美由利
小林 涼:島﨑信長
佐藤絢音:川栄李奈
『サマーゴースト』公式サイト
『サマーゴースト』公式Twitter
(C)サマーゴースト
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